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〆切本

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Amazon「内容紹介」より
「かんにんしてくれ給へ どうしても書けないんだ……」
「鉛筆を何本も削ってばかりいる」
追いつめられて苦しんだはずなのに、いつのまにか叱咤激励して引っ張ってくれる……
〆切とは、じつにあまのじゃくで不思議な存在である。
夏目漱石から松本清張、村上春樹、そして西加奈子まで
90人の書き手による悶絶と歓喜の〆切話94篇を収録。
泣けて笑えて役立つ、人生の〆切エンターテイメント!

翻訳問答」があまりに面白かったので、続刊情報をいち早く得ようと、ツイッターで出版社である左右社さんをフォローしていました。
そうすると、先月中旬頃から「〆切本」なる本の情報が流れてくる、流れてくる…。
タイトルだけでもなんだかそそられるじゃないですか、コレ。
どうしようかこうしようかと数日悩んでいたのだけれど、我慢できずに買ってしまいました。

結果から申しますと、正解でしたよ。
これは本好きの皆さんに、心からお勧めしたい一冊です。
明治から現在に至るまでの作家大先生たち。
文豪と呼ばれる方々もその中には含まれます。
夏目漱石、島崎藤村、泉鏡花、志賀直哉。
谷崎潤一郎、里見弴、内田百閒、坂口安吾。
全てを挙げることはできませんが、これだけでもスゴイ面々だとおわかりでしょう。
この皆さん方が「書けないんです」「辛いんです」と、随筆であったり手紙であったりで、訴えているのです。

言葉を操るプロの皆さんです。
その訴えも、ある人が語ると切なくなり、ある人が語ると可笑しくなり、これまたある人が語ると妙に腹立たしくなり。
『〆切』のひと言ではありますが、その言葉の裏には実に様々なドラマがあるようです。

『〆切が来ないと書けない』という方もいらっしゃれば、『〆切を破る意味が分からない』という方もいらっしゃいます。
それぞれに言い分はあるようでして、読みながら納得させられたり、思わず背筋を伸ばしてみたり。

印象に強く残ったのは次のお二人。

まずは内田百閒。
彼がある年末に、どうにか年越しの金を工面しようとしていました。
最初に彼は雑誌社の編集者を訪ね、作品を書くので買ってくれと頼みます。
「間に合いますか」との編集者の問いに、「間に合わなければ僕が困ります」と答える内田百閒。
しかしこれが書けないんですよ。
書けない状況(言い訳)が延々繰り広げられるのです。
そうこうしているうちに、こんな心境になります。

こんな目に合うよりは、方方借金に歩いて、いやな顔をされてもお金を借りて来る方が、余っ程風流である。

なので、書くのを止めて借金にでかけます。
そうすると、こう言われるわけです。

もう今日は二十九日じゃありませんか、あんまり遅すぎますよ

作品も書けず、借金もできず、挙げ句の果てにたどり着いた境地が、これまた…。
あまりのダメダメ振りに、一度内田百閒の作品を読んでみなければ!という気持ちになりました。
私、恥ずかしながら、まだ作品を手にしたことはありません。
どなたかオススメがございましたら、教えてください。

そして時代はずっと進みまして、西加奈子。
彼女の言い訳は「肉眼ではね」です。
こんな風に使います。

「西さん、先週締切の原稿ですが、まだ送っていただけないのでしょうか。」
「肉眼ではね」

これは、

自分は己の目で見えるものしか信じない、物事の背景にある様々なものに心の目を凝らすことができない俗物

と、相手に思わせる趣旨。

使ってみたくなりますよね。
「このレビュー、あんまりだらだらと長すぎやしませんか?」
「肉眼ではね」
なんてね。

藤子不二雄A、長谷川町子、岡崎京子のコミックも収録。
秋の夜長に是非どうぞ。

単行本
購入日:2016.10.17
読了日:2016.11.05

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