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サルガッソーの広い海/ジーン・リース

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「BOOK」データベースより
陽光と死にあふれたカリブの島で、激しくも数奇な愛と憎しみのドラマが始まる。
30年の時を経て、劇的な復活を遂げた『早過ぎた作家』リースの代表作。

中学生の頃に氷室冴子さんの「シンデレラ迷宮」を読んで、そこで初めて「ジェーン・エア」なる作品を知りました。
「ジェーン・エア」を読んだのは高校生の頃。
氷室さん同様、私もジェーンに惹かれたのでした。

ジェーン・エアは孤児。育ててもらっていた家では差別され、9歳で寄宿学校に入れられます。生徒として、そして教師として過ごした後、ソーンフィールド邸に雇われました。
そこで出逢ったのがソーンフィールド邸の当主、ロチェスター氏。
彼と恋に堕ち、結婚式を迎えたその日、衝撃の事実が明かされます。
ロチェスターには狂った妻がいるというのです。
ジェーンは深く傷つき、彼の元を去るのでした。
その後、火事でロチェスター夫人は亡くなり、ジェーンとロチェスター氏は結ばれます。

その狂った妻。ロチェスター氏は『バーサ』と呼んでいました。
けれど、彼女の本当の名は『アントワネット』。
このアントワネットを描いたのが本作です。

『バーサ』と妻の名を呼ぶロチェスターに、アントワネットが泣きながらこう言うシーンがあります。

バーサは私の名前じゃないわ。あなたは私をべつな名前で呼んでだれかに仕立て上げようとしてるのね。

アントワネットはクレオールです。
作者であるジーン・リースもまたクレオール。
元々クレオールという言葉は、植民地で生まれ育った白人を指していたのだそうです。

黒人の幼友達はアントワネットに、「あんたたちは昔の白人だ」と言います。

ジャマイカには白人がいっぱい。本物の白人、みんな金貨を持っている。あの人たちはあんたたちなんか目にもとめない、だれもあんたたちに近づかない。 昔の白人は、今は白い黒んぼでしかないし、黒い黒んぼのほうが白い黒んぼの乞食よりずっとまし。

イギリス人ではあるけれども、イギリスを知らないアントワネット。
農園主だった彼女の父は、農奴解放令の後、みるみるうちに落ちぶれていきました。農奴として使われていた黒人と、使う側だった白人との立場が大逆転してしまったのです。
彼女たちは現地の人々から『白いゴキブリ』と蔑まれ、悪意をぶつけられました。
それでも彼女たちが貧しかった時はそれですんでいたのです。
裕福なイギリス人と母が再婚し、貧しさから逃れた途端、現地の黒人たちの憎悪は爆発。
彼らはアントワネットたちの屋敷に火をかけました。
家は焼け落ち、弟は死に、母は気が触れてしまうのでした。

裕福な義父は、多くの財産をアントワネットに遺してくれました。
それに目がくらんだのが、イギリス人のエドワード・ロチェスター。
彼はアントワネットを愛してなんかいませんでした。
悪い噂で気持ちが離れてしまうほどに、それなのにアントワネットを自由にしないくらいに。
あぁ、ロチェスターの印象が、すっかり変わってしまいました。

カリブ海の青い空、青い海。南国の花々。
色鮮やかな舞台の話のはずなのに、鬱々とした雰囲気が漂っています。
温度の高い空気は、そのまま息苦しさに通じていきます。何かから逃れようとしてもがいても、どこにもたどり着けないような苦しさに。

アントワネットの母も、アントワネット自身も、確かに正気を保つことができなくなって行きました。
でも、だれがそこまで彼女たちを追い詰めていったのでしょう。
彼女たちは狂ったのではなく、狂わされていったのでした。

いろんな問題を含んだ複雑な背景があるだけに、一読しただけでは全てを理解できませんでした。
「ジェーン・エア」を再読して、もう少し様々な知識を得てから、じっくりと再読したいと思います。

単行本
借出日:2016.11.04
読了日:2016.11.11

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