「BOOK」データベースより
駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。
歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。
谷崎潤一郎賞を受賞した名作。
大町ツキコさんは37歳。独身OL。一人暮らし。そしてお酒が好き。
一人で駅前の一杯飲み屋で飲んでいたとき、偶然隣り合わせたのが高校時代の国語の先生でした。
すぐに名前も出てこないけれど、顔は何となく見覚えがある…。
その程度の印象しかない人。
なのに先生はちゃんとフルネームで呼びかけてきました。
「大町ツキコさんですね。キミは顔が変わりませんね」
そういう先生の名前が思い出せなくて、「センセイこそお変わりもなく」と答えたときから、この国語の先生はツキコさんの『センセイ』となりました。
『先生』でもなく『せんせい』でもなく、『センセイ』に。
この物語は37歳のツキコさんと、彼女より30歳以上は年上のセンセイのお話です。
あわあわ。
ぬくぬく。
やわやわ。
ずきずき。
とくとく。
そんなひらがなの言葉がよく似合う恋物語。
少し意地っ張りなツキコさんと、真面目でちょっぴりお茶目なセンセイ。
ツキコさんとセンセイの、静かに穏やかに進んでいく日常を追いかけていたら、いつの間にか恋が始まっていて、切なくなって苦しくなって、最後はほろほろと寂しくなりました。
待ち合わせるでもなく、ただ偶然に飲み屋で隣り合わせに座ったり。
市が立つ日に一緒に行ってみたり、キノコ狩りに出かけたり。
面白そうな物を見ては、「いいですね」とうなずき合う関係。
二人とも充分に大人ですから、あえて近づこうとせずとも、その距離感が心地よかったんですよ。二人だけでいるうちは。
好きだの惚れただのということは口にも出さず胸に浮かぶこともなく。
ただお互いの存在だけを感じていられればよかったのです。
でも、二人以外の誰かが間に入ってきてしまうと、ダメなんですね。他の人と親しげに話す相手が、自分の知らない人みたいに見えてしまうのです。
ツキコさんはまだ30代ですから、特にそういう気持ちは抑えきれなくなるようです。
ページが進むにつれ、あわあわした二人の関係は、胸がずきずきするような、そんなふうに移り変わっていきました。
なんかね。うまく言葉で表せないんです。
この物語を読み終えたあとの気持ちを。
懐かしくて、切なくて、哀しくて。
そういう気持ちが、じわじわと心の中に染みていくような感じです。
図書館で借りた本でしたが、そばに置いて何度も読み返してみたくなる物語だなと思いましたので、早速注文しました。
この物語は電子書籍も似合わなさそう。
秋の夜長の少し涼しい風に吹かれながら、ゆっくりとページをめくっていくのが似合います。
春のぽかぽかした陽射しの下でもいいし、夏の夜でもいいです。冬の温かいお布団の中でも。
いそがしくめくるのではなく、一つ一つの言葉を愉しむようにじっくり読みたい物語ですね。
あぁ、お酒を飲みながら読むのが一番よいかもしれません。
「本が好き!」という読書コミュニティサイトで課題図書として挙げられた本書。
ツキコさんとセンセイとの出逢いを与えてくれたことに感謝です。
単行本
借入日:2016.02.06
読了日:2016.02.10
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